高齢社会を迎えたいま、地域で暮らす人々にとって外出先の選択肢があるかどうかは、その人の生活の質を左右します。段差ひとつ、駐車場の有無といった小さな条件が、外に出る意欲を奪うこともあれば、逆に社会とのつながりを生み出すきっかけになることもあります。

今日訪れてくださったお客様は、ご夫妻と、そのお母様。母より二歳ほどお若い方でした。正午頃に「駐車はできますか?」と立ち寄られ、午後に改めて車でご来店くださいました。窓辺で景色を楽しみながら語らうお姿に、かつての母を思い出し、胸が熱くなると同時に、地域に居場所をつくる意味を強く実感しました。帰り際にはテラスのスロープをご利用いただき、安心して歩みを進められる様子に安堵しました。

私たちが小さな喫茶店を始めたときに願ったのは、単に飲食を提供することではありませんでした。杖や車椅子を使う方も気兼ねなく訪れられる空間を用意し、「ここなら行ける」と思っていただくこと。そうした工夫の積み重ねが、外出のきっかけをつくり、地域でのつながりを守ることにつながるのだと信じています。

人口減少と高齢化が進む地方では、病院や行政サービスの場所以外に「安心して人と出会える場」がますます必要になっていきます。喫茶店のような小さな居場所は、単なる憩いの場にとどまらず、人と人をつなぎ、孤立を防ぎ、暮らしに張り合いをもたらすささやかな役割を担っているのだと思います。

今日のお客様との出会いは、そのことをあらためて確かめさせてくれる出来事でした。小さな店の日々の工夫や心配りが、地域にとってほんの少しでも温もりを添えるものになればと願っています。

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